小父ちゃん

 私が独身時代に職場の仲間に誘われて時々飲みに行った時、とてもお世話になった人です。今でも夫婦で小さな食堂をやっています。

 私はアルコールに弱いので直ぐに酔いつぶれてしまい、いつも介抱してもらったり、家まで送ってもらっていました。

 私も自分の事で追われてしまい、すっかりご無沙汰していましたが、用事のついでに久しぶりに寄ってみました。その時、脚がつって困る!と言ったのでマッサージをしたのが始まりで、以来7年近くマッサージに通うようになりました。

 私が行く1年程前に脚が痺れて仕事にならないので、首の手術をしたそうですが、少しも良くならない!と言いました。

 それを聞いた時、私には荷が重すぎると思いましたが、取り敢えず出来る事をしてみようと思ったのです。何故なら、、若い時にお世話になったままだったからです。

 それからは週に1度は出掛けて行って、脚を中心にマッサージをしていました。店はコンクリートの土間にビニールタイルを貼っただけなので、6月の初めとはいえ、足下からかなりの冷えを感じました。

 私は半袖のTシャツ1枚でしたが、小父ちゃんは下着も含めて3枚も着ていました。それでも背中が寒いと言っていましたが、何故か、ズボン下も穿いてはいませんでした。それらの事から考えて、間違いなく重症の冷えであると判断しました。

 その為、半身浴を勧め、必ずズボン下かステテコを穿くようにと言いました。最初は不思議そうな顔をしていましたが、私が細かな説明をした後、来週も来るからと言ったのでやっと納得してくれました。

 翌週、行ってみると、早速、ズボン下を穿いていたので少しは冷えも良くなっていました。

 マッサージを始めて半年ぐらい経った頃、布団から足を出さなくても眠れるようになったと言いました。それまでは、真冬でも足が熱くてかなわないので、布団から足を出して寝ていたと言います。やはりそうだったか?と思いましたが、黙っていました。

 痺れの方は太ももから足先だったものが、今では殆ど痺れを感じなくなったそうです。私は週に1度しか行けませんので、毎日電動ローラーと脚を空気でマッサージする道具を使うように言ってあります。

 ローラーは元々ありましたが、空気の方は私からのプレゼントです。

 毎日、真面目に使っていてくれたので、そこまで良くなったのだと思います。

 この小父ちゃんは、夏になるとポットに入れた水を飲んでいるので気になっていましたが、ある時コップに氷が浮いているのを見つけたので、その場で直ぐに止めさせました。

 恨めしそうな顔をしていたので、言うことを聞かなかったらもう来ないよ!と言ったら、渋々承知しました。そして、小母ちゃんにもこれからは決して氷水を飲ませないようにして欲しい!と頼みました。

 私が何故強引に止めさせたかと言いますと、何時まで経っても腰痛が良くならなかったからです。

 毎週、きちんとマッサージを帆しているので、本来なら腰痛もかなり良くなっている筈なのに、行く度に腰が痛い!と言うので、診るとその前と少しも変わらないのです。その為、これは何か原因があるな?と思っていたのです。それが、ポットに入れた氷水だったのです。

 人間の体温は低い人でも35°くらいはありますが、氷水は5度以下なので、そんな物を毎日飲んでいたら内臓を冷やしてしまいます。

 冬にそんな事をする人はいませんが、夏場は暑さの為につい油断してそんな事をする人が出て来るのです。そして、突然!胃の痛みを訴えたり、時には入院の憂き目に遭う人もいるのです。

 私も子供の頃に冷たい物ばかり飲んでいて、真夏に3日間も寝込んだ苦い経験がありますので、危険を感じたのです。

 何故なら、もう直ぐ80歳になろうという人がそんな事をしたら、最悪の場合、入院する事になるからです。

 それから1月あまり経ってやっと腰痛も治りましたが、私が忠告した通り、以前にも増して冬の寒さを強く感じたそうです。

 そして、翌年の春には体調を崩してしまい、お医者様から場合によっては入院しなければならないとまで言われたそうです。

 私が行った時に寝ていたので、どうしたのか?と思って小母ちゃんに聞いてみたら、そんな話をしてくれました。

 その時は、激しい下痢と腹痛で苦しんでいましたが、私が足から丹念にマッサージをした処、次第に腹痛も治まりました。そして、小父ちゃんも薬が飲めるようになり、何とか入院しなくて済んだのです。

 そんな事がありましたので、今では私のいう事を素直に聞いてくれます。

 私も自分の親のような年齢の人達に小言を言うのは嫌ですが、時にはそうしなければならない事もあるのです。

 私が体調を崩してからは時々顔を出すだけになりましたが、足のローラーと空気のマッサージ器がありますので、それらを使って元気にしてくれています。