脳梗塞のNさん

 父が道路で転倒して入院していた時に会った人です。

 父の容態も落ち着き個室から大部屋へ移ったので、泊まりから昼間だけの付き添いになりました。平日の昼間は妻が、夕食の後から消灯まで私が付き添い、休日は朝から消灯まで私が付き添うという日々が続きました。

 そんなある日、父が昼寝をしてしまったのでロビーに居たら歩行器でやって来た人がいたので話をしました。

 その人は脳梗塞で入院し、今は毎日リハビリをしていると言いました。その時、全く膝が曲がらないんだ!と言ったので、後で部屋へ行って診てあげますよ!と言いました。

 暫く話をしていましたが、何時までも父の傍を離れている訳にはいかないので、部屋へ戻りました。

 部屋へ戻って直ぐにその人が通ったので、何処かな?と思って見ていたら、隣の部屋へ入りました。

 父はぐっすり眠っていて簡単に置きそうもないので、行ってみる事にしました。

 私が顔を出した時は、丁度、ベッドに腰掛けていたので、直ぐに横になってもらい、曲がらないと言っていた脚を触ってみました。

 確かに、筋肉が鋼のようになっていたので、これでは膝が曲がらなくても当然だな!と思いました。

 足の裏を軽く押しただけでとても痛がりましたが、少し我慢をしてもらい、足先が少し温かくなるまで優しく撫でた後、膝から足首までを丹念にマッサージしました。

 時々、痛がって顔をしかめる事もありましたが、次第にうっとりとした顔になりました。

 病院の中なので、あまり長くやっていると変な目で見られますので、マッサージの方法だけ教えて引き上げる事にしました。

 その時、ご本人が気持ち良い!と言って、無意識に脚を動かしましたが、その途端!それまで全く曲がらないと言っていた膝が楽に曲がったのです。

 これにはご本人も目を丸くして驚いていましたが、私は、脚の筋肉が柔らかくなったので当然かな?という程度にしか感じませんでした。

 それから数日してロビーで会った時、毎日しっかり脚のマッサージをしているので、今では楽に歩けるようになりました。と言われ、良かったな!と思いました。

 2ケ月ほど経って、父の診察の為に仕事を休んで病院へ連れて行った時、突然!後ろから声を掛けられたので驚いて振り向くとその人でした。

 丁度、父と同じ日に外来で来て居たのです。

 以前と比べしっかりした足どりでしたが、言葉の方は未だ思うようではないようでした。それでも、以前はお世話になりました。と言われてしまい、返事に困りました。

 隣に居た妻が、知っている人?と言ったので、事情を話したら黙って頷いていました。


 私は誰とでも気軽に話をしますし、時にはその場でマッサージをしてしまいますので、またか?と思ったのではないでしょうかか?何れにしても、私のお節介が少しは役に立ったようで何よりです。