忍び寄る冷えの恐怖 

 冷えと言うと、女性特有のものと思われがちですが、男性も決して疎かに出来ない問題なのです。

 私がお会いした方の殆どが、ご自身では気づかないだけで、冷えが原因でなんらかの問題を抱えていました。

 冷えとは言っても、その症状には大きな差があり、一概には言えません。

 私は、阪神の大震災の後、幸運にも被災地へ行く機会に恵まれ、人の年配のボランティアの男性に会いました。その時、この人を助けられるのは自分しかないない!この人を何とかして助けてやりたい!という想いだけで夢中になって治療をしたのです。

 そして、この男性との出会いが、その後の人生を大きく変える事になりました。

 現地に着いてから夢中になって仕事をしていましたので、周囲の事は殆ど目に入りませんでした。何気なく後ろを見ると、疲れ切った顔をしている年配の男性がやっとの事で立っているのが見えましたが、近くの小父さんだろう?ぐらいにしか思っていませんでした。

 それから暫くして、後ろの方で、ボランテイアさん休んでいてください!という声がしたので、振り返ってみたらその男性でした。

 私の仕事が一段落したので、仲間に、少し中へ行ってくる!と言って、その男性に声を掛け、肩を抱き抱えて建物の中へ連れて行きました。

 私が、今から建物の中に行きます!と言ったので、男性は恐らく、中で休ませてくれるのだと思っていたのかも知れません。

 中に居た方にお願いして長椅子をお借りして、こからマッサージをするからと言ったら、突然の事にとても驚いて居ましたが、黙って従ってくれました。防寒着と靴を脱いでもらい長椅子に横になってもらいました。

 身体に触った時はとても冷たくて、まるで全体が石のように硬くなっていました。これは筋肉が冷えによって硬くなってしまった為で、歩く事は勿論!立っているのも大変だったのではないか?と思いました。

 その男性は、毎日、仕事が終わると市役所へ戻り、コンクリートの上に段ボールを一枚敷いて、その上で毛布に包まって寝ていたという話でした。

 例え、建物の中とはいえ一日中寒い中を外で仕事をして冷え切った身体のままで、夜はそんな状態で寝ていたのでは、体調を崩さない方がどうかしています。

 ほんの20分ほどしか時間がなかったので、思うように治療が出来ませんでしたが、何とか自力で立って歩けるまでになってくれたので、それだけで胸が一杯になってしまいました。

 私が困ったのは、ご本人が感激の余り大声で泣き出してしまい、近くに居た方が驚いて、何事が起きたのだ!と、慌てて覗きに来た事です。

 その為、私はマッサージを中止しなくてはならくなりましたが、周囲の方も黙って納得してくれました。

 この男性は、大阪からやって来たと言っていましたが、それまで色々な人にお世話になったけれど、退職して暇になったので、少しでも恩返しがしたいと思ってやって来たのだと話してくれました。

 その時の体験が、それまで真っ暗なトンネルの中に迷い込んだような私に、一筋の光を投げかけてくれました。自分という人間にも出来る事があるのだと。