苦悩の日々

 私が結婚したのは30歳を過ぎていましたので、どちらかと言えば晩婚になるかと思います。

 結婚して直ぐに配置換えがあり、それまでとは違う仕事を担当する事になりました。それまでは、どちらかと言えば自分達で直接手を下す、いわゆる直営の仕事が中心でしたが、その時から下請けの人達の監督をするようになったのです。

 私達の職場は、直営が2割ほどで、後は総て下請けに出しております。その監督を長年やって来た先輩と一緒にやる事になったのですが、それが私にとって地獄の始まりでした。その先輩は確かに仕事は出来ましたが、かなりの気分屋でしたので、自分が少しでも気に入らない事があると、下請けの人達に八つ当たりするのが常でした。

 それだけでは治まらず、私と二人きりになると、今度は私に文句を言い出すのです。私にもっと技術と知識があれば黙ってはいませんでしたが、何分にもなれない仕事だけに黙って従わざるを得なかったのです。その為、相手を余計に増長させる結果になってしまいました。

 そんなある日、夜中に突然!電話が掛かって来て、現場でトラブルが起きたので至急来るように!と言われました。私はその現場の事はまったく知りませんでしたので、寝耳に水でしたが、急いで現場へ行きました。

 私達が着いた時は既にトラブルは解消しており、私達の出番はありませんでした。その為、家に戻って寝る事にしましたが、一度起こされてしまったので、中々寝る事は出来ませんでした。

 翌日も、通常通り出勤しましたが、私の顔を見た途端!昨夜の事で早速、八つ当たりを始めました。それ以来、月に一度か二度、夜中に電話で呼び出され、自分が少しでも面白くないと直ぐに八つ当たりをするようになったので、私は精神的にすっかりおかくしなってしまいました。

 そんなある日、私は突然!男性機能が完全に麻痺しているのを知り、愕然としました。結婚して未だ一年も経っていないのに、突然!そんな事になってしまったので、目の前が真っ暗になってしまいました。

 それから一ヶ月半の間、本当に地獄のような日々が続きました。何度、薬に頼ろうと思ったか解りません。然し、一度でも薬に頼ってしまうと、もう二度と戻れなくなるのではないか?という気がして、必死に耐えたのです。

 少しでも仕事の事を忘れる為に、休日には妻と一緒に映画に行ったり、温泉に行ったり、少しでも身体を元気にする為にマッサージにも通いました。

 そんなある日、やっと元に戻った時は本当に涙が出るほど嬉しくなりました。やっと普通の男に戻れたのだと


 然し、私にとって地獄のような日々はそれから一年以上も続きました。その先輩は確かに居なくなりましたが、今度は余計なお荷物を背負わされる事になったからです。

 四年間の辛い仕事からやっとの事で解放された途端!私は過労が元で入院する羽目になってしまいました。その時に考えた事は、自分はもう充分に仕事をして来たのだから、ここらで休んでも少しも罰はあたらない!という事でした。

 それよりも、一日も早く元気を取り戻さなくてはならないと、自分で自分の気持ちを奮い立たせ、いつしか病棟で一番元気に良い患者さんになっていました。それは誰の為でもありません。自分自身の為でした。

 それから、十数年後にまた、同じ先輩に虐められる事になるとは夢にも思わず。