川根にある温泉が未だ「茶里夢の泉」と言っていた頃の話です。町で運営していたので小さな内湯と露天風呂がひとつだけでしたが、温泉の質が良いのでかなりの人気がありました。
何時ものように、肩にタオルをのせて、露天風呂の横にある東屋の前を通り掛かった時、丸太を切った椅子に腰掛け、しきりに肩を揉んだり、腕を動かしている人を見掛けたのです。
何となく気になって、五十肩ですか?と聞いたら、そうです、もう半年も掛かっているんです。という返事でした。最初は戸惑った様子でしたが、私が裸のまま肩にタオルを掛けただけだったので、少しは安心したようです。
マッサージへ行ったら却って痛みが強くなってしまった!と言うので、五十肩の場合は無闇に揉んではいけないんですよ、と言ったら、とても驚いていました。誰だって初対面の相手にいきなりそんな事を言われたら驚くのは当然です。
余り身体を冷やして欲しくなかったので、腰まで風呂に浸かってもらい、タオルを痛む方の肩にのせてもらってから、五十肩について話をしましたが、何もご存じないようでした。
その人が、自分は自動車の修理工場をやっているので、腕が思うように動かないと仕事にならない!と言ったので、大変だろうなと思ったのです。
私が見た時はとにかく必死の形相だったので、つい声を掛けてしまいましたが、それでは必死になるなる気持ちもよく解ります。
隣へ座って、、肩は決して冷やさない事、揉まない事、温泉や風呂に入る時は必ず半身浴にしてタオルを肩にのせて少しずつ温める事など、五十肩の対策について説明をしました。
とにかく、痛みがある時は無理に動かしてしまうと、症状を悪化させてしまいますので少し温めてからゆっくり動かす事など、説明をしている内に、顔が大分赤くなって来たのでそろそろ時間だな、と思って、ゆっくりと肩を動かしてみるように言いました。
相手は私の話を夢中になって聞いていたので、驚いた様子でしたが、恐る恐る動かしたら、本人が驚くほど楽に腕が動くようになりました。ここの温泉は塩分を大量に含んでいる関係で冷えや腰痛に効くので、短時間で効果が出たのです。
ご本人はまるで狐につままれたような顔をしていましたが、私にしてみれば当然の結果なので別に何とも感じませんでした。
それよりも、私の話を真剣に聞いてくれ、自分は今まで反対の事をやっていた。これからは一生懸命やってみるよ。と言ってくれた事が何より嬉しかったのです。この人とは二度と会う事はありませんが、私にとってはとても楽しい思い出になりました。
五十肩は迂闊に揉んでしまうと症状を悪化させてしまう事があります。その為、少しでも痛みを和らげ、腕が楽に動くようにするには、肩を冷やさない事と、決して無理に動かさない事がとても大切です。そして、温泉や自宅の風呂にゆっくりと浸かって血液の流れを良くする事がとても大切です。
五十肩は痛みが激しい上に、治るまでに時間が掛かりますので、気長に治療するしか方法はありません。
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