地元の小父さん

 家族に少しでも正月気分を味あわせてやろうと思い、大晦日に川根へ温泉を買いに行ったついでに、温泉に浸かって来た時、会った小父さんです。

 露天風呂へ行くと、首までお湯に浸かって顔をしかめながら、肩を掴んでしきりに腕を動かしている小父さんが居ました。それで、五十肩ですか?と聞いたら、五十肩だか?、八十肩だか?と言った後、もう二年も痛んでいるだよ!と言いました。

 いくら12月の露天風呂でかなり寒いとはいえ、顔も真っ赤になっていましたので、黙っていると危険な状態になってしまう可能性がありましたので、少し浅い処へ移動させる事にしました。

 そこで、そのままでは湯あたりを起こすだけで何の効果もありませんから、少し浅い処へ移動した方が良いですよ!と言うと、素直に移動してくれました。

 急いで、隣へ入り、それまで頭にのせていたタオルを取って、痛む方の肩にのせてお湯を掛けてやりました。その後、こうして時々お湯を掛けていて10分か15分もすれば少しは動くと思うよ!と言うと、早速、自分でお湯を掛けていました。

 首までお湯に浸かっていたので、小父さんはガスで魚を焼いているのと一緒で、表面だけ熱くしているから悪いんだよ!と言うと、頷いていました。

 少し気になるのか、時々腕を動かし掛けるので、未だ時間が来ていないから駄目だよ!と言ってから、小父さんはアユの甘露煮を作るんでしょ!と言うと、お茶で煮て骨まで柔らかくなってから醤油と砂糖で煮るんだ!と言ったので、それと同じで、じっくりと身体の芯まで温まらなくては駄目なんだよ!と言ったのです。

 寒くなってからは痛みが強くなったので、毎晩、肩に使い捨てのカイロを当てて寝ていると言うので、要らないチョッキがあったら、胸の処で切って着て寝ると肩が痛まないよ!と言いました。

 家でも、今日と同じようにして、いつもより温い湯にじっくりと浸かった方が良いよ!アユの甘露煮と同じだよ!と言いました。

 以前、ここで五十肩の人に会ったけど、ちゃんと腕が挙がるようになったよ!と言うと俺も此処だよ!と言ったので、こんなに良い温泉があるのだから、しっかりとやっていたらきっと良くなるよ!と言いました。

 その後も、何度か腕を動かし掛けましたが、注意している内に帰る時間になったので、もう動くと思うよ!と言ったら、直ぐにやっていましたが、今度は楽に動きました。

 私が、もう良いよ!と言おうとしたら、ご本人は肩が楽になった!と言って、またタオルをのせていましたので、そっとしておきました。

 肩の痛みが軽くなって腕が楽に挙がるようになったので、すっかり喜んで、今日は良い師匠に会った!と言ったので、今日はお説教されて大変だったね!と言うと、説教されたとは思っていないよ!と言いました。

 私が2、3ヶ月は掛かると思うよ!と言った時に、二年も前からだ!と言った意味がその時になってやっと解りました。

 この小父さんにも二度と会う事はありませんが、少しでも良くなっていてくれたら何よりだと思っています。